カサンドラサポート カサンドラ症候群について

カサンドラ症候群とは

「カサンドラ症候群」とは配偶者など身近にいる人が発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)であることが原因で、心が通い合わず、発達障害の当事者を支える周囲の人(家族やパートナー)が精神的に疲弊し、心身に様々な不調をきたした症状をいいます。過去には精神剥奪症とも鏡症候群とも言われておりました。
具体的な不調の症状は人によって異なりますが、不安障害、鬱、不眠、思考力の低下、頭痛、コントロールできない苛立ち、慢性的な絶望感や孤独感、突然泣いてしまうなどの情緒不安定、パニック障害、強い自責の念、自己肯定感の低下などがあります。時には自暴自棄になり、破壊的行動がみられる等の精神身体的な症状を呈するようになると言われています。 ASDのパートナーとの日常生活は、心的外傷体験の積み重ねで心身の不調は日々悪化するとも言われており、早期のサポートと周囲の理解が必要とされています。しかし、ASD当事者の研究やサポート体制は整いつつある一方で、周囲の精神的サポートや研究は十分とは言えないのが社会全体の実情です。

知的障害や言語障害を伴わないASDは、幼少期に障害を見逃され、適切な療育が受けられず未診断のまま大人になり、就職、結婚、子育てと環境が大きく変化し、人間関係やタスクが複雑化されて、二次障害(精神疾患:うつ、不安障害、適応障害、統合失調症など 問題行動:暴言・暴力、モラハラ、アルコール依存症、ギャンブル、金銭的DVなど)を発症して初めて根底の発達障害が明らかになる場合もあります。ASDは深い付き合いがない場合、普通に思われることも多く、パートナーや家族は長年原因不明の問題行動に悩んだり、心の通わないことで孤独感に苛まれ徐々に精神的に疲弊していきます。

カサンドラ症候群は正式な病名ではなく心の状態を指すため、医療機関で診断することはできません。当事者が「そうかも」と感じれば、自己判断でカサンドラ症候群とお考えいただいて差し支えないと思います。

さまざまな心身の不調はカサンドラ症候群ではないかと疑う女性

カサンドラの由来

カサンドラは、ギリシャ神話に出てくる女王の名前です。予言の能力を持っていましたが、その予言をだれにも信じてもらえない呪いをかけられており、様々な苦悩を経験したのち悲劇の死を遂げます。
カサンドラ症候群は、自分の気持ちを何度話しても発達障害の人に心が通わない絶望と、世間的には問題なくまともに見えるために周囲に話しても理解してもらえない孤独が、このカサンドラ王女と重なって名付けられました。
カサンドラ女王のような悲劇と苦悩を経験しないためにも、早めの正しい対処が必要です。
専門機関や専門家は救う方法は教えてくれますが、自分の心を救えるのは最終的には自分自身だけです。
カサンドラ症の方々は、ASDのパートナーの不満や普通ではないところを他人に話しても、「何言ってるの、真面目に働いてくれていて、いい人なのにバチが当たるよ。」となどと軽くいなされてしまい、カサンドラ王女のように周囲に信じてもらえない経験がある方は少なくないのではないでしょうか。
得体の知れない、原因の分からない不安感や孤独感には対処方法がありませんが、カサンドラ症候群が原因であると分かると、新たなステージに進み、対策できるようになります。
自分がカサンドラ症候群でパートナーがASDという事実は雷が走ったような衝撃かも知れませんが、いい未来に進んでいくスタート地点に立ったとプラスに捉え、カサンドラについてしっかり理解していきましょう。

私が我慢すればいいと思いながら疲れ果てているカサンドラ症候群の女性

苦しみの根幹と
解決の大前提

カサンドラ症候群はパートナー(家族)の発達障害が原因だと言われていますが、発達障害だと何が一番問題なのでしょうか。大きな問題の一つは、「思いやりが一方通行」になってしまうことなのではないでしょうか。人間は一人では生きていけず、支え合っていくものだと言われていますが、それには、相手の気持ちや都合を押し測って思いやることが不可欠です。どんなに疲れていても、感謝の気持ちやねぎらいの言動があれば明日へのエネルギーに変えることができますが、こちらは与えるばかり、パートナーからはなにももらえないとなると、それは思いやりの搾取とも言えるかもしれません。それでは、定型発達のカサンドラ症候群の人は発達障害のパートナーといる限り、絶望と虚無感、孤独感を永遠に感じ続けることになり、消耗し続けてしまします。

この問題は、カサンドラ症候群の方とASDのパートナーのお互いが原因を理解し受け入れることによってのみ、克服あるいは軽減することができると言われています。

つまり、女性がアスペルガー症候群とASDの知識を持ち、男性がASDを自覚していることが前提となります。さらに、「思いやったりできないのは、俺はASDだから仕方ない」と、ASDを免罪符に生きるのではなく、生き方を変えたいと思っているかどうかが鍵になります。

ただ、この段階に到達するまでが困難であり道のりは長いと考えられます。特に、ASDを当事者が受け入れられない場合は、事態の改善は難しいでしょう。
神経科に行っても、心療内科や精神科に頑なに行こうとしない、発達障害の検査を受けようとしない、発達障害を指摘したらキレて「お前が障害者だ!」などと言ってしまうのは、事態を改善する見込みが薄い場合です。

相手が自身の発達障害についてどのような姿勢であれ、相手を軸として物事を捉えるといつまで経っても前にすすむことはできません。「次は優しい言葉をかけてくれるかもしれない、次指摘してわかってくれたらこれからも夫婦生活を頑張って続けていこう」というような考え方は相手の出方次第で振り回される原因になります。

カサンドラ症候群の人は、相手に尽くし、面倒見がよく、相手に合わせやすく、このような相手を軸にして自分の意見が薄い考え方をしがちな傾向があるようにお見受けします。
カサンドラ症候群は昔は鏡症候群とも言われていたようで、夫婦は似てくるので、ASDの人と長くいると、ASD特有の考え方が当たり前のように思えてきて自分こそが発達障害かもしれないと思うこともあります。

とにかく、カサンドラ症候群の問題を一言で説明するのは不可能なほど、精神と脳の特性が複雑に絡んだ現象であり、一人で問題解決は困難を極めますので、相手のことは一旦置いておいて自分の心の状態に意識を集中させましょう。 相手がどうであれ自分はこうするという一本芯の通った心の状態になると、一見状況は外から変わらないように見えても、相手に振り回されることなく、自分を軸にして楽しい人生を楽に幸せに歩んでいけるようになります。

解決していこうと協力して寄り添っている夫婦

カサンドラ体験事例

思いやりの一方通行、金銭の強いこだわり
ASD夫になんで私ばっかり尽くしているのか不満なカサンドラ妻

ASDの脳は「他人」という概念が薄く、人の気持ちを想像することが苦手な特性があることが多いです。これが原因で、故意でなく身近な人を傷つけてしまったり、思いやりが感じられないことがあります。 簡単にいうと、「俺のものは俺のもの、他人のものも俺のもの」という考え方が近いかもしれません。
(例)
・施してもらったら、自分も相手をその分喜ばせようという考えにはなりづらく、貰いっぱなしで当たり前という態度をとる。誕生日やクリスマスのプレゼントを妻からもらっても、夫から妻に返すことはないなど。
・夫婦であっても自分が稼いだお金だから、相手にあまりお金をかけたくない思っており、財布や口座を妻に預けず、苦しくても決まった金額でやりくりするように強く拘り、悪意なく金銭的に苦しめていることも。

気遣いのない自分勝手な言葉、ロボットのようなトンチンカンな受け答え
病気の妻にロボットのように決まった時間に夕食を求めるASD夫

脳の特性のため、自分本意で突然の変更に柔軟に対応することができず、相手の都合を全く考えない行動を取ることがあります。相手がどう思うか、それを続けているとどんな未来につながっていくかを想像することに意識がいきづらいためです。人間関係が複雑になってくると距離の取り方がわからず、とりあえず敬語を無難に選ぶこともあるようです。距離感を掴めず、あだ名を自然に呼ぶ流れがわからないと言われる方もいます。
(例)
・妻が体調が悪くても、気遣うことなく、自分の夕食を作るよう催促したり、朝と夜に決まった飲み物を必ず用意するように強いたりする。
・会話の裏の意図を読み取れず、AかBで答えるべきところをCと答えてしまうような、ロボットのようなトンチンカンな受け答えをしてしまう。
・思った通りにストレートに答えてしまい、それを言ったら関係が破綻する言葉も先を考えずに発言してしまい、人間関係に取り返しのつかない深い亀裂を入れてしまう。
・人との距離感を感じ取って敬語とフランクな言葉遣いの使い分けがうまく出来ずに、誰にでも敬語を使いがちでよそよそしくなってしまう。

子供への無関心、優先順位の低さ
子供の名前よりゲームを優先させるASD夫

子供や妻に対して「愛おしい」「自分の何に変えても無償で尽くしたい」という気持ちが薄いことがあります。臨機応変に相手の反応を見て相手の必要とするものを与える能力が必要な育児はASD特性の脳には特に難しいタスクかもしれません。子供が産まれて妻が夫のASD気質にきづくこともあります。男性は女性より育児に関心が低い場合が多いでしょうが、あまりにも人間性を疑うほどおかしい場合は、発達障害を疑った方がいいかもしれません。
(例)
・子供の事情より自分のことを優先する。名前を積極的に決めない、子供のエコー写真などに興味を持たないなど。
・子供の出産のメールを人に送らない。または、写してはならないようなところまで写真で撮ってしまう。
・指示を出せばできるが、気を効かせて、積極的にミルクやおむつ替えや抱っこなどをしない。
・子供の顔に視線をあまり合わせない。新生児の顔にタオルがかかっていても気づかない。
・見返りを求めない無償の愛で子供が喜ぶものを買い、一緒に遊び、喜ぶことを時間の許す限り何でもしてあげたいという気持ちが薄い。(子供より自分だけで楽しめる独身時代からの趣味が明らかに優先)

そのほか、ASDの方には、定型発達の人には考えられない超人的な記憶力があったり(これをカメラアイと言います。)、自分で決めたルールに反する人は絶対に許せなかったり、感情が抑えられずにコントロールできずに後先考えない行動にでたりしてしまうこともあります。もっと詳しく知りたい方はこちらのページをご覧ください。

カサンドラの苦悩

周囲に理解されない苦しみ
外からみたらいい旦那に見えるASD夫に苦しむカサンドラ妻

深く関わりのない外から見ると、真面目で優秀な旦那さんに対して細かいところに不満を抱いて愚痴るわがままな妻のように目に写ることもあります。「うちもそんなものだよ。優秀で稼ぎも良くて真面目でいい旦那さんよ。」と軽くいなされてしまい、真剣にとりあってもらえないことも。それが続くと、次第に人に相談しようという気持ちもなくなり、我慢を続ける生き方をえらんでしまい、精神状態が悪化していきます。

将来の不安で不眠に
将来への不安で不眠になるカサンドラ妻

悩みをひとりで抱え込み続けていると、次第に眠れなくなることもあります。結婚してから明らかに心身に不調が現れてる場合は何か心因性のストレスが潜んでいると考えられます。不眠は精神疾患と深く関わりがあり、早めの対処が必要です。眠れない以外にも、頭がぼーっとしてだるくて深く考えることができない。いつも不安感に襲われ、何をしてもソワソワする。一人でものを選択して決められなくなってしまった。おしゃれやメイクなど見た目に気を遣っていたのに一切どうでも良くなったなど、多種多様な良くない変化が現れているものです。

負の感情の蓄積で心が不安定に
負の感情の蓄積でパニックになるカサンドラ妻

常にイライラするようになったり、小さなことでキレてしまったり、突然涙が出てきてとまらなくなったり、日常生活を普通に送ることが難しいほど感情のコントロールが効かなくなっている場合は早急な対応が必要です。 電車に乗るだけでパニックになったり、胸が苦しくなったり、頭がうまく働かずにスーパーにいっても何を買ったらいいかわからなくなってしまったり、電話に極度に緊張して出れなくなったり、とにかく普通ではない、このままだと日常生活をまともに送れなくなりそうと感じたら、一人の力ではどうしようもないところにきているかもしれません。医療やカウンセリングなど専門機関に属するプロの誰かに助けを求める必要があるでしょう。